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2013年 個展によせて

 


                          岡 惠介  (東北文化学園大学教授)

 1990年代にはじめて見た先生の作品は、白の下地に柔らかな色彩を乗せた、明るくしかし複雑なマチエールに支えられた重厚な作品群。一枚の画布の中に、歴史の重みをたたえた建物群、運河と舟、演奏する音楽家たち、天使、麗しき美女や母子、もの思い佇む男女、遊ぶ子どもたちが、繊細な色調の変化の中に流麗な線で、時空を超えて描かれて見え隠れする油彩たち。華やいだヴェネチアの風や、囁きや、さざめき、音色が流れていた。
 それ以前の作品には、青を基調とした作品が多かったと聞く。近年は再び青が多用され、沈黙と夜の影が強まり、人物の線描がより大きな位置を占めている。小品化の流れの中で、多くのモチーフを一枚に閉じ込めた重層性を醸した作品から、ひとつひとつのモチーフの深化・象徴化に、画家の思いは移ってきたのだろう。
 削ぎ落としていく作業の中から、特に油彩の中で、画家はどのような枯れた味わいの世界を見せるのか。その兆しはHP掲載の作品にも見える。 今度の個展を愉しみにしている。

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